Stories“Brother Louis”(1973)

 書くこと、これは私の重要な仕事の一つである。小学校の時、いつも「へただなー」と思いながら作文を書いていた。「へただ」ということに気がついていても、どうすればうまく書けるのかがわからないから、ずっと「へた」のままだった。

 中学に入って本を読むようになったが、映画を見る時間と比べれば読書時間はるかに短かった。映画好きの両親の遺伝子を受け継いでいた私は、テレビで放映される映画はもちろん、毎週のように入場料の安い名画座に行っては「かなり古い映画」や「ちょっと古い映画」を見ていた。「スクリーン」が私の愛読誌だった。生意気な口をきいたり、大人びたことを考えていたのは、映画の影響だろう。しかし、作文となるとからきしだめで、相も変わらず「へたな」文章を書いては恥ずかしい思いばかりしていた。

 高校に入って、愛読誌は「キネマ旬報」になった。読書量も格段に増えた。文学作品もたくさん読んだ。パール・バックの『大地』を読破したのは高校二年の時だっただろうか。読書量が増えるにつれて、文章がうまくなるにはどうしたらいいか真剣に悩んだ。ある時、うまい文章を書き写すのが効果があるという話を聞いた。さっそく実践した。

 当時文章がうまいと思っていたのは志賀直哉だった。彼の『暗夜行路』を書き写すことにした。それなりの量を写したが、かなり効果があったように思う。やはり「書く」ために必要なのは、まず「書くこと」以外にはないのだ。

 大学時代の恩師は、高校時代一生懸命に読んだ本の著者だった。とても文章のうまい人で、いつかは同じような文章を書きたいと思っていた。いつの頃からか、恩師の文体をまねて書くようになった。うまいと思わせる表現テクニックをいくつか直接伝授されたりもした。「うまい」の構成要件はいくつもある。簡潔であること、明瞭であること、素直に読めること、意味が伝わること、これらは最低限の構成要件だろう。だが、論理性を犠牲にせずこれらを実践することはむずかしい。

 その恩師が脳梗塞で倒れ、ペンを持つことが不可能になった。長年の永井荷風のような生き方がたたったのかもしれない。

 ある時その恩師の自宅に呼ばれた。出版社からしかじかの原稿を依頼されたが、かわって書いてくれないかと、先生はおっしゃった。とてもうれしかった。やっとそれなりの文章が書けることを認めていただいた、それに恩返しもできる。

 さほど長いものではなかったが、かなり時間を要した。完成原稿を先生に見せた。先生は「よく書けた」と言って涙を流された。脳梗塞に伴う「感情失禁」という症状だったかもしれない。しかし、その涙が私にとって重大な意味をもったことは言うまでもない。

 書くことは、仕事の一つであるとともに、私の人生にとってとても大切なことである。だから、人目にさらすまでとても時間がかかる。校正を何度もする。この超個人的なホームページも例外ではない。

 以上が、なかなか更新できないことの「言い訳」である。

 頻繁に更新できないので、新しい「音ネタ」コーナーを二つ作ることにした。まず“Old Sigles”。

 我が家には、二人合わせるとかなりの枚数のシングル・レコードがある。それを「小出し」にして「時間稼ぎ」をしようというわけである。

 今回このコーナーを作るにあたって、シングルを整理していたらジャケットのちがう「ブラザー・ルイ」を発見した。一枚は私ので、もう一枚は相方のものである。

Stories(1973)
A : Brother Louis
B : Changes have Begun
Stories(1975)
A : Brother Louis
B : Mammy Blue

 ストーリーズについては“Brother Louis”しか知らなかった。この曲はいつ聴いてもいい。アレンジとヴォーカルがぴたりとはまり、これで完成品である。だから、アレンジを変えても、ヴォーカルが変わっても、“Brother Louis”でなくなってしまう、そんな一曲である。

 私が持っていたレコードのB面の“Changes Have Begun”は、さしておもしろくなかったが、今回Junchan所有のレコードを見てみると、B面はなんと“Mammy Blue”に変わっていた。「オー マミ オー マミ マミ ブルー オ マミー ブルー」。これは、たしかポップ・トップスのカヴァーである。重複して持っているシングル・レコードは何枚かあるが、ジャケットもB面も変わっているのはこれだけだ。

 さてもう一つは、“Newcomers”である。

 ずいぶん長く生きているので、数え切れないくらい音楽を聴いている。したがって、新しいものがでてきても、よほど気に入るか、気にならないとレンタルすることも買うこともない。我が家の音楽ライブラリーに入るのは大変なのだ。

 そこで、小うるさいおじさんとおばさんの審査にパスして、我が家の音楽ライブラリーに「新規参入」したCDアルバムを簡単に紹介することにした。2005年以降、レンタルしたもの(レンタルして「個人使用の目的」でコピーしたもの)や購入したものを月単位でアップする。

 “Old Singles”では過去の音楽生活を、“Newcomers”では現在の音楽生活をかいま見ていただこうと思っているのだが、ひとつ残念なことがある。

 もし年代順に“Old Singles”並べるとすると(実際にはしないが)、私にとって最初に来るのはグループ・サウンズものや加山雄三ものである。ところが、そのシングル・レコードが今手元にない。

 小学校の時、兄が持っていたパット・ブーンやリッキー・ネルソンやPPMといった「洋楽」を聴いていたが、自分で買うのは、グループ、サンウンズや加山雄三だった。高学年になると、なぜか「邦楽」はだめだと思い始めた。なぜだかわからない。「洋楽」の方がはるかに「かっこいい」と思ったのかもしれないし、同年代の「子供たち」と同じであることがいやだったのかもしれない。「いやだ」とか「だめだ」と思ったものはいらないとなって、当時父の仕事の関係で出入りしていた人にみんなあげてしまった。

 今考えるともったいないことをした。さらにLPを買ったので「もういらない」とか、聴き飽きたから「もういいいや」と思って、友達のシングル・レコードと交換して手元にないものもある。レッド・ツェッペリンの“Good Times Bad Time”や今CMで流れているゾンビーズの「二人のシーズン」なんかがそうだ……

 私には今でも「後先を考えない」こういう気前よさ(?)みたいなものがある。だから、時々相方に手綱をしめられる。「ほんと、何をするかわかれらないんだから」。

(2005-01-30)

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