ハングルのことわざをのぞく(十四)

 今回は、教育事情をのぞいてみよう。

 韓国の教育制度は日本と同様、6・3・3で、その後、大学校4年、専門大学2年などに分かれる。(その学部を、‘大学’という) 義務教育は6年のみだが、進学率は非常に高く、70%を超える。当然教育熱は高く、名門大学に入るには、幼い頃から激しい勉強の競争を強いられる。日本の教育産業がやっているような、毎週・毎月の添削プリント学習なども活用されている。人文・理工系ともにエリート養成校があり、ここに入れるのも熾烈な競争を勝ち抜いた者だけである。そのため、“学院”と呼ばれる塾は大盛況。“課外”と呼ばれる家庭教師は、かつて軍事政権時代に、国民の間に教育上の不平等を招くという理由から禁止された時期すらあった。民主化の推進とともに“課外”も私教育も自由になり、それまで実施されていた“自立学習”(学校での補習授業)が廃止されたため、受験戦争に拍車がかかることとなった。


 韓国は強烈な上昇志向の社会である。学校に於いても、すべての生徒が1番を目指して猛勉強し、また教育も“できる子”に焦点を合わせ、「全員ができるようにならなくてはならない」と徹底的に鍛える傾向にある。なぜそのような流れになったのか? それは、伝統的な儒教社会で‘科挙という国家試験を受けて官僚になることが最高の価値’とされてきたその考えが受け継がれ、“2番もビリも同じ”という精神に支配されているからであろう。(オリンピックのところで述べた勝利至上主義にも通ずる) また、韓国社会が極めて明確な学閥社会で、名門高校・大学出身者でない者に対する差別があからさまであり、就職状況が非常に厳しい折、名門出身でないと良いところになかなか就職できないというのも、もう一つの理由である。(逆に起業する若者が多くなり、学閥社会も変化しつつあるらしい) 


 小学生のいるほとんどの家庭で“課外”をさせていて、その47%はピアノや英語、水泳など3つ以上の習い事に通っているとのアンケート調査の結果が出た。また、小中高すべての学生の課外費用を総計すれば、7兆1000億ウォンにも達し、これは仁川新国際空港がもう一つ建設できるほどの金額であるという。
 韓国の学校でもイジメ(ワンタ)が酷く自殺者が出たり、不登校、学級崩壊などの現象も起きている。映画でよく見かける、高校男子生徒への体罰は未だに日常的に行われてのだろうか。 “先生の日”(5月15日)という、生徒から花束などを贈り親睦を深める習慣があったが、近年、都会の学校では感謝の意と称して教師に金封筒を渡す賄賂の日と化し、多くの学校では休日になっている。過酷な受験戦争も不当な地域差が存在し、アメリカ・オーストラリアなどへの留学も盛んで、教育エクソダス(脱出)と呼ばれる移民ブームも生じているそうだ。
 男子は大学在学中に兵役に就くことが多く、休学をする。男女を問わず、親のスネを囓って海外留学するケースも少なくない。男子の場合、兵役終了後に復学せず留学したりして、卒業するのは30歳近くなっているということも決して珍しくない。(かのヨン様も休学中である) 休学せずにいると、周りの同級生は年上ばかりとなり、1歳でも年上だったら名前の呼び方も違うくらい上下関係がはっきりしているので、同級生といえども窮屈。従って、大学を4年間で卒業する人は非常に少ない。


 新学期の始まりは3月。日本の大学入試センター試験に相当する修学能力試験(修能)は、毎年11月に実施される。エリート養成校のような特殊校を除き、高校入学が割り当てのような形をとっているので、受験といえば大学入試一回だけとも言える。大学校は、学生時代はカフェの割引特典や合コンにつながり、卒業後は就職・結婚と一生を左右する。修能は年に一度の大イベントだ。その日は、時差通勤が呼びかけられ、バイク・タクシーは「受験生乗車中」の看板を掲げ道を譲るよう促し、遅刻しそうな受験生がいれば、パトカー・救急車・出前途中の料理店のバイクまでもが“出動”し、受験生を会場まで送り届ける。会場周辺は車の通行・駐車が禁止される。昨年、日本のテレビの画面でそういう映像を目にした方もおられるだろう。


 日本では、今年“置くとパス”という、合格ハチマキをしたタコの人形がグッズとして売り出された。定番の『キットカット』に加え、『カール』は“受カール”、『コアラのマーチ』も‘コアラは寝ていても木から落ちない’という理由で、受験生応援コーナーに並べられている。
 韓国で試験の日に食べてはいけないのは、“ワカメスープ”。ヌルヌルしたワカメを食べると滑ってしまうというわけ。合格の験を担ぐモノとしては、“合格する”と同音異義の“くっつく”という言葉の連想で、“飴”や“餅”が定番だ。受験生が、後輩や会社を休んで付き添ってきた父親・母親に見送られ会場に消えたあと、試験時間中に子供たちの健闘を必死で祈り続ける母親が『校門』に“餅”や“飴”を貼り付ける光景は、風物詩となっている。

*黄金千両が息子の教育には及ばない

*イバラに棘が生える

*十指のどの指を噛んでも痛くない

*ドブから竜が出る

2005-01-30 UP

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