ハングルのことわざをのぞく(二十五)

秋夕 チュソク

 秋夕は、日本でいう仲秋、つまり陰暦の8月15日である。陽暦の現代社会における今年の秋夕は、9月18日に当たる。 旧正月に並ぶ名節(ハレの日)で、お盆と秋分の日を一緒にしたような、一年間育てた農産物を採り入れてその収穫を喜ぶ日であり、先祖に感謝する日でもある。

 韓国でも、春は「植木の日」秋は「秋夕」に祖先祭祀を行うことが多い。その励行ぶりは日本の比ではなく、ソウルなど都会では市場・デパート・食堂等が閉められ、閑散としてしまう。秋夕には墓参りのために故郷を目指す人が多く、民族大移動と呼ばれるほどの帰省ラッシュ、通常だと車で3時間ほどの所でも、10時間余り掛かったりすることになる。
  春は、「寒食」と呼ばれる冬至後105日目の墓参日が4月5日頃になるため、「植木の日」の祝日に集まることが多いらしい。

 一家一族で秋夕に行われる祭祀は、先祖(四代以内の祖先:高祖父・曾祖父・祖父・父の祭祀は、それぞれの命日に家庭内で行われ、忌祭祀という。)を祀るために行われるもので、元旦に行われるものと同様に、茶礼(チャレ)と呼ばれる。五代以上前の祖先に対しては、毎年一定の日に行われるが、秋夕に一緒にやる家庭がほとんどである。 家庭内で茶礼を済ませて、みんなで墓前へ向かうことになる。

 手をかけた墓には、石塔が建ち、石垣がつくられ、獅子が置かれていたりしていて立派である。このような丁重な祖先祭祀・顕彰は、祖先を敬うという儒教的な観念が反映されている。しかし、それは先祖のためだけではなく、現世に生きている子孫が経済的・社会的地位を有していることを示す行為でもある。(未だに、両班の出であるということが看板となるのが韓国社会だ。)
 その祭祀の指揮を執るのは一家の長男で、その嫁は祭祀のたびに人数分の弁当作りや準備で忙殺される。祭祀が終わると墓前で飲福(ウムボク)と呼ばれる宴が始まる。秋夕の神饌(神に供える飲食)は、牛・豚・鶏や 石首魚の干物などで、松餅、新酒、豊かな秋の実り(果物)をたっぷりお供えする。その供物のおすそわけを子孫一同で頂き、功徳を賜る。また、一族の絆を確認する機会でもある。 韓国が長い間農耕国家であったことを知ることのできる、伝統的な農耕儀礼だ。生ものをお供えするところが、日本とは明らかに違うところである。
 松餅:うるち米粉を捏ね、栗・緑豆・小豆の塩餡・ごま砂糖 などを包んだ小振りの餅を松葉で蒸して香り付けしたもの。
 ソウル人は、秋夕料理として、トランタン(土卵湯)という里芋の入った牛肉スープが好きらしい。

 

 韓国では土葬が普通で、一族の山に土饅頭をつくって埋葬してある。土葬の習慣が広まったのは儒教の影響だと言われている。儒教の考えでは、一度昇天した死者の魂は再びこの世に戻ってくる。そのときに、拠りつく身体を残しておく必要があり、遺骸を燃やさずにそのまま埋めておく土葬が広まったという訳だ。
 そのうち、すばらしい場所にお墓を築いてこそ、将来にわたって家系が繁栄すると言われるようになり、人々は亡くなった家族のため、将来の子孫のため、少しでも良い明堂(お墓に適した立地)を確保しようと躍起になった。(そこで風水師が活躍することになる) よい明堂を手に入れるためなら、多少の他人の迷惑など見て見ぬ振りも当たり前。夜中に他人の領地内の明堂にコッソリ死者を埋葬する者もいたし、お墓が隣接している遺族同士の間では、境界や新しい土饅頭の位置をめぐるトラブルが絶えなかったという。
 土饅頭に入るのは基本的に一人。従って、代が下がるごとにお墓は下に下に造られ増え続けていく。戦後、生活が豊かになった人々は、大きなお墓を造りたがり、時代とともにお墓の用地の確保は難しくなり、それによる土地不足は社会問題化した。(国民一人当たりのお墓の面積が宅地の約3倍、延べ面積では国土の約1%が墓地) 70年代には個人のお墓の広さは80平方メートル以下に制限され、80年には巨大な墳墓の撤去も敢行。その後も火葬による埋葬を勧めてきている。

 亡くなった親を火葬するするのは二度殺すようなものだと、それを拒む人も少なくない。しかし、政府が慎重かつ周到に火葬を奨励してきたことが功を奏し、都市部を中心に火葬は少しずつ増えているようだ。 ドラマ『美しき日々』でも、壁一面にロッカーのようになった祭壇のシーンがあったのを覚えている。日本でも、民間霊園のお墓は、墓の区画が狭くなったり、個性的な墓を求める消費者の意向があり、横長の墓石を使った「洋型」が、今や6割を占めている。お墓も時代とともに、様変わりして来ている。

2005-09-18 UP

*祭祀のおかげで米飯を食う

*位牌の飾り付けをしていて、祭祀ができない

*念仏は上の空で、供え物にだけ気がある

*ご馳走にもあずかれない人の祭祀に、お辞儀ばかり死ぬほどする

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