ハングルのことわざをのぞく(十二)

 何年か前までは知っている韓国料理といえば、焼き肉・キムチ・冷麺、いわゆる焼き肉屋の定番のみであった。

 冷麺!あのゴムのような麺がステンレス製の器に這入ったモノ。以前、美味しいと思ったことはなかったと思う。それを一夏に何度も食べるようになろうとは、考えてもみなかった。もう一度食べたい と思うような韓国製の冷麺のパックに“成城石井”で出会ったのだ。麺を軽く茹で、キムチとスープを加えていただく。麺ははごたえがよく、キムチの味が普段口にするモノとは違う。冷麺用キムチというモノがあるということを知ることになった。それまで食べていたのは、何だったのだろう? 夏が終わるとともに、“成城石井”ではその美味しい冷麺が棚から消えた。そんなことにはならないと思っていたのだが・・・冷麺は、実は冬の料理なのだから。韓国では、寒い冬にオンドルの暖かい部屋でそれを食べるのだそうだ。韓流にのって、いろいろな料理・食材が紹介されるようになった。サムゲタン(参鶏湯)などもレトルトで売られている。若鶏の内臓を抜き、中に餅米・ナツメ・栗・ニンニク・朝鮮人参などを詰めて煮込んだものだ。渋谷・吾照里で食べたときには、注文してから40分も経ってやっと口にすることが出来た。漢方食材が詰められたこの暖かい健康食は、滋養強壮に良いとされる、夏の料理である。

 韓国=焼き肉。今でも多くの人の間ではそうだろう。しかし、三国時代(4〜7世紀頃)は、仏教の普及とともに食肉は禁止されていた。高麗時代(13世紀)にモンゴル人支配の下、牧畜と食肉加工技術がもたらされた。長い朝鮮王朝時代を通じて、あらゆる部位を美味しく食べる独特な食肉文化が確立されたわけだ。“サンチュを食べると眠くなる”と言われているが、サンチュには鎮静作用・催眠効果があり、医学的にも証明されているウワサである。

 焼き肉文化が日本に定着するには、在日韓国・朝鮮人の多大な貢献があったと言える。最近は、説明する必要も無くなったようだが、焼き肉屋のメニューに“チヂミ”(韓国風お好み焼き)と日本人のために付説してあったりする。本国では「焼いたもの」という意味の“チョン”“プチムゲ”と書かれている。種類も、パジョン、トゥトゥジョン、エホバクジョン、クルジョン(ネギ、緑豆、カボチャ、牡蠣)と多彩である。この“チヂミ”というのは、方言であろうという話がある。焼き肉屋を開いた多くの在日韓国・朝鮮人の方々の出身地で、“チョン”のことを“チヂミ”と呼んでいたのであろうということだ。日本のお好み焼きのルーツが、関西・大阪に多く居住する彼らが関わっているとすれば、日本の“お好み焼き”が“日本風チヂミ”ということになる。

 キムチは、朝鮮半島での漬け物の総称だが、その祖先は三千年ほど前に中国で作られた野菜の塩漬けである。唐辛子は16世紀後半に伝来し、当初は毒草扱いされていたこともある。朝鮮キムチが赤くなったのは、18世紀後半からで、わずか250年前。今やその種類は300とも400とも言われている。ご存じ白菜、胡瓜、大根の角切りをはじめ、カラシナ、蔓人参、葱、桔梗等々。ムルキムチ(水キムチ)というあまり辛くないものもある。唐辛子の成分・カプサイシンには食欲増進と脂肪燃焼の効果があることは、誰もが知るところとなった。
 キムチを家庭で作るとなると一仕事なそうな。段ボール一箱の白菜、それに劣らない量の大根、人参、葱、ニラ、にんにく、ショウガなどの入った野菜の一箱、塩辛類や肉などが山と積まれる。白菜を四分割し、塩をまぶし、具の材料のカット、具の挟み込みと一気に成し遂げないといけない。木の実や果物を入れたりもする。
 以前、テレビでとっても美味しい“オモニのキムチ”として紹介されたものを、思い切って注文したことがあった。テレビの力は凄い。三ヶ月待ちというメールが入った。残念だが、心待ちにしたキムチは、思ったほどではなかった。しかし、オモニが悪いのではない。心を込めて、キムチ好きの人のためにちょっとずつ作っていたモノを、電波に乗ったことによって大量に作る羽目になり、味が落ちたのであろうことは想像できた。それまでヒッソリ愛好していた方々にも、ご迷惑をおかけしてしまった。 

 韓国人は体によいことが大好きだ。(その割りには、ヘビースモーカーが多いと聞くが・・・) 調味料を薬念(ヤンニョム)お酒を薬酒(ヤクチュ)、餅や菓子にも昔から貴重な薬でもあるハチミツを入れ、薬菓(ヤクグァ)薬食(ヤクシク)と呼ぶ。チゲは、肉・野菜・豆腐などを入れヤンニョムで味付けした鍋料理である。チゲが鍋料理のことだから、チゲ鍋というのは(新聞に載る単語だとはいえ)変な言葉である。

 会話を勉強していて知ったことがある。挨拶に続いて、あるいは挨拶代わりに「食事はなさいましたか?」と尋ねられることがあっても、これは次の会話の糸口とする場合がほとんどなので、たとえ食事をしていなくても「食べました」と答えるのが普通だそうだ。

*金剛山も食後の景色

*サンチュにコチュジャンを欠くことが出来ようか

*ハチミツも薬だと言われたら苦い

*生きている人の口に蜘蛛の巣が張ろうか

*鬚が五尺でも食べてこそ両班だ

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