ハングルのことわざをのぞく(五)

 テレビ・ハングル講座で、「クェンチャナヨ」=「大丈夫、気にしない」という言葉を習った。スキットはこうだ。

 韓国のレストランでの一コマ。ウェイトレスのてがすべって、男性客は水をかけられてしまう。当然ウェイトレスが「ごめんなさい」とか「すみません」というと思っていたのに、「クェンチャナヨ」と言うのだ。男性客は、人のズボンに水をかけておいて「気にしない」はないだろう、それは自分が言うことじゃないかと、ちょっと腹が立った というものだ。

 ‘うっかり直訳ビックリ誤訳’というコーナーで扱ったものだから、ウラがある。日本では「大丈夫」は何かをされた方が相手を気遣って言うが、韓国では、なにかをしたほうが、困った顔をしている相手を気遣って言うこともあるのだそうだ。この場合、「水だからシミになったりしないので、大丈夫です。心配しなくてもいいですよ」という意味で使われている、と解説してあった。

 納得がいかなかった。悪いことをしたと思ったら、「ごめんなさい」でしょ。「すみませんでした。大丈夫ですか?」なら分かるが、「水だから平気ですよ。」なんて、気を遣っていう言葉? 何それっ! と思った。


 ‘クェンチャナヨ精神’というのがあるらしい。何事も細かなところにあまりにも拘らな過ぎる韓国人の気質を、少々皮肉って、そう呼ぶのだそうだ。

 会社をさぼって市内を案内してくれる韓国人に、「仕事はいいの」と聞けば、「クェンチャナヨ」。 行く先を告げると、バス停でもないのに 「クェンチャナヨ」と言って目的地でバスを止めてくれる運転手。「なんとかなるさ」「どうでもいいよ」「適当、適当」と、原理原則を曲げてでも、人間関係を優先させたりするこの言葉が、韓国の生活の中で潤滑油になっていることも確かなようだ。

 日常生活に根付いているように思われる‘クェンチャナヨ精神’だが、ことわざの中にそれを見つけることは出来なかった。それっぽいのはあるのだが・・・。


*腐った縄でトラを捕らえる

*さしあたって食べるには、干し柿が甘い

*ツケで買うなら、牛も屠って食べる

*粥になろうが、飯になろうが

*トラにくわえ去られても、気を確かに持ちさえすれば生きていられる

 「クェンチャナヨ」には、次のような使い方もあることを付け加えておく。

  コーヒーを勧められてやんわり断る場合: 結構です

  料理の味について尋ねられて: 結構いけますよ

  人柄について: なかなかいい人ですよ

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